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販促用ワインオープナーが時代を語る

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酒屋でワインを買うと、昔はときおりワインオープナーをオマケで付けてくれたものだ。
購入時に「家でワインを飲みたいけど、ワインオープナーは持ってない」と打ち明ければ、わりと簡単にT字オープナーをポイッと渡された記憶がある。





T字はソムリエナイフのようにテコの原理を働かせられないので、とくに乾燥したコルクでは難儀する。それに、上手にコルクへ刺すコツを酒屋の親父さんが教えてくれるわけもなく、斜めに刺して力任せに引っ張り上げ、コルクを粉砕させることも少なくなかった。おかげで、世間一般に「ワインのコルクを抜くのはむずかしい」との印象も強まってしまった。

ホームパーティにワインを持参し、持参したソムリエナイフで抜栓しようものなら、
「ソムリエみたーい」
とキャッキャッ盛り上がってくれる、ひと昔前。
「え、ワインの仕事してるってことは、もしかしてソムリエなのぅ?」
「いや、僕はワインアドバイザーで」
「なにソレ? じゃあソムリエじゃないんだ、なーんだ」
「……」
という流れになるのは、ワインアドバイザーによくあった話。あ、いや、これは今もか。
「だーかーらー、日本ソムリエ協会の認定試験ってのがあって、ワインアドバイザーもソムリエも筆記試験を受けるのは同じなんですってばー」
との説明を一度もせずに生きてきたワインアドバイザーは、世の中に居ない気がする。

ぐいっと話を戻そう。

その後、ワインの家飲みが浸透するにつれ、ちょっとしたワイン好きの家にはスクリュープルやソムリエナイフが常備されるようになった。
スクリュープルは、石油発掘技術者が開発したオープナー。スクリューを刺す角度が決まっているから、失敗率は限りなく低い。ソムリエナイフだって、質にこだわらなければ100円均一ショップでも入手できる。





ワイナリーのロゴが入った販促用ソムリエナイフも増えてきた。コストはT字オープナーの比ではないが、熱烈なファンやソムリエが愛用することを見越しての投資だ。

おかげで最近、販促用のT字オープナーを見かけない。握り手の部分にブドウの古樹を使ったものや、シルバーのメッキが施されている高級品は、装飾との兼用でまだまだ需要がある。その一方、プラスチックの握り手に会社名の入った廉価なT字オープナーは、見事に消えてしまった。スクリューキャップ導入のワインが台頭し、道具ナシにワインが飲めるようになってきたことも、T字オープナーの消滅に拍車をかけているのだろう。

いっぽう、ワイン文化の定着にまだまだ伸びしろのあるワイン発展途上国では、オープナーをワインと一緒に渡す必要がある。
では、諸外国でもT字オープナーを配布しているのか、というと……





おや、T字ではない。
こちらはインドのヴィンスラ・ヴィンヤーズのオープナー。スクリュー以外はプラスチック製で、社名入りなのはT字オープナーと同じだが、形状は完全に異なる。スクリュープルのように、差し込む角度がずれないようにガイドが付き、回転式でコルクを抜く力は軽減。





こちらは、中国・トルファンでもらったオープナー。基本構造は、上のインド版と同じだ。
駅の待合所にワインバーとも販売所ともつかないスペースがあり、与太話をしながらボトルを2本ばかり買ったら、店の兄さんが満面の笑みでオープナーをプレゼントしてくれた。でも、これって兄さんが自分で使ってたやつ……いやいや、中古で文句はない。旅の記念には最高だ。

とまあ、2カ国でゲットした販促用ワインオープナーは、近代のアイデアをちゃんと取り込んでいた。特許についてはグレーゾーンかもしれないが、初心者に優しいデザインであるのは確か。こちらのタイプが20年前の日本に販促用として出回っていたら、もっと早くにワインの消費量がアップし、ワインブームの高まりに貢献したかもしれない。なにしろ、「コルクがうまく開けられない」っていう最初の導入部分を優しくフォローしてくれるデザインなのだから。

販促用オープナーも、案外と時代を反映しているもの。オープナー・コレクターとしては、これからも貪欲に集めるべく、言葉が通じない国でも物欲しそうな目だけでネットリとアピールする能力を高めていこう。……語学を学ぼうとの発想には至らない、残念ながら。


文・山本ジョー