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Column

今さらながらボージョレ・ヌーヴォーの背景を

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11月第3木曜日は、ボージョレ・ヌーヴォー解禁日。業界人にとっては常識でも、素人にはいまだ「えー、あの解禁っていつだっけ?」程度の認識だ。事実、私は毎年誰かに尋ねられる。逆に「海の日っていつ?」「体育の日は?」と聞かれると視線は泳ぐわけで……毎年変更される「○月第○曜日」が覚えにくいことも、己で実感はしている。


しかし、「認識が浅いならまだまだ新鮮なネタってことさ」とポジティブに解釈できるおかげか、テレビのワイドショーではヌーヴォー解禁をお約束通りオンエアしてくれる。ただし、放映時間はゲストとして登場する芸能人の頑張り次第だ。
今年は、スーパーマーケット「イオン」品川シーサイド店での解禁イベントに呼ばれた柳沢慎吾がヌーヴォー放映枠をほとんどかっさらっていった。ごくごく普通のスーパーで、深夜にも関わらず自分のネタを全力投球する柳沢慎吾は感動に値する。大好きだよ慎吾、最高だ。



……いや、ちょっと待った。たしかに慎吾は素晴らしいけど、そこで感動が終わっては本末転倒。それでなくともヌーヴォーにまつわる、ときにクレイジーなまでの盛り上がりを苦々しく思う人々は少なくない。ヌーヴォー解禁で初めてワインに興味をもった人のなかには、もう1歩踏み込んだ情報を欲する未来のワイン愛好家だっているはずなのに。

そんな、ボージョレ・ヌーヴォーの先に広がる世界へ進もうかどうしようか迷っている人には、まず

「そもそもボージョレ・ヌーヴォーとはなんぞや?」

という話をシッポリ聞かせてあげるといい。



その昔、ヌーヴォーで盛り上がったのは絹産業が盛んな町、ブルゴーニュのリヨンだ。多くの工場労働者や養蚕業者が集まり地元のワインを楽しむが、毎年夏になると消費量が供給量を上回り、ワインが尽きてしまう。ボルドーをはじめとする他エリアの中高級ワインがあるにはあるが、低賃金で働く彼らに縁はない。もはやワイン断ちに近い状態に陥った彼らがただひたすらに待ち望むのは、秋の新酒解禁だった。





もちろん、ワイン生産者にとっても解禁の意味はデカイ。

春の芽吹きから収穫期まで、霜、雹、嵐、病気、虫の発生などなど畑での心配事は絶えない。ヘタをすれば、何かの拍子で1年分の利益がパーになる。






今ほどノウハウが蓄積されず自然にまかせっきりだった時代のこと、現物のワインを目の前にしてようやく、経済破綻の恐れから解放される。日本のテレビでは、解禁日にチャラチャラした部分ばかりが強調されるものの、本来は生活に密着しメンタルにズシンとくる意義深いお祭りなのだ。



さて、時空を移動して現在へすっ飛んでみれば、ボージョレ・ヌーヴォーは進化し続けている。マセラシオン・カルボニック法で早く発酵させるとの括りでは、もはやおさまらない。古樹のブドウを使用、酸化防止剤無添加、旧式の木製圧搾プレスを復活させて使用、短期間ながら樽で熟成、とヌーヴォーだけでなんでも揃う。

海外輸入分の最大消費国は日本。凝り症な日本人にも、ヌーヴォーはあの手この手でフィットしてくるのである。



……以上、ボージョレ・ヌーヴォー今昔物語は、ブルゴーニュの大手ネゴシアン「ラブレ・ロワ」の副社長、チボー・ガラン氏による語りを参考にした。





ところで、チボー氏自身はお祭り大好き人間である。毎年「箱根小涌園ユネッサン」のワイン風呂では、ヌーヴォー解禁を祝ってフランス人男性がワインボトルを掲げるのだが、まさにその男性こそがチボー氏! 柳沢慎吾ばりのエンターテイナーだ。

まあ結局、お祭り騒ぎでもまったくOKということ。なにしろ、大手ネゴシアンのオジサマが、風呂なんてじつに日本的なスタイルでヌーヴォーを満喫しているのだから。

ちなみに、強面が集まる各自持ち寄りワイン会でアクセントになるのも、ボージョレ・ヌーヴォー。力強い造りをするドメーヌのものを選び、7~8年ほど寝かせてネタを仕込んでおく。ヌーヴォーながらほどよく枯れた具合を見計らい、銘柄を隠して試飲に出すと、
「平凡な収穫年のモレ・サン・ドニ?」

とかなんとか諸々のご意見が。銘柄を明かすと

「ヌーヴォーっっ???」

「ぎゃっ、ピノじゃなくてガメイ!」

と大パニックになる。

この手、私も使ったことがあるし、使われたこともある。





文・山本ジョー